はんだ理論(9)

 母材となる金属が、溶けた はんだ中に溶出ある現象は Cu だけでなく Au、Ag などの金属で も発生します。 Au はケーブルでは めっきなどに使われますが、Au がはんだ中に溶融した場合、析出すると AuSn4、AuSn2、AuSn、Au2Pb、AuPb2 などの金属間化合物ができます。はんだがこれらの 金属間化合物を含んだ場合、その部分が脆くなりやすいく、接続面で剥離の心配があります。金 めっきをした母材のはんだつけには注意が必要です。

 (金の量が少ない場合は影響が無いとする 論文もありますが、金めっきの厚さが厚いものは はんだ付け時に注意したほうが良いでしょう。)

 

 Ag 母材と共晶はんだと、Cu を含んだ鉛フリーはんだへの溶解の違いを研究した結果では、 Ag は鉛フリーはんだへの溶解が多いという報告があります。現在主流の鉛フリーはんだは接続 温度が高く、はんだ付け時間も長くなります。また、Cu を含んだものがほとんどですので、Ag 線や、Ag を含んだ母材の場合は、はんだの選択、はんだ付け条件を慎重に検討する必要もあり ます。

 

 はんだの相平衡 「はんだ付け理論(その 8)」などで何度も、金属が何種類か混合されると融点が下がる。と いう話をしてきました。このことについて少し詳しく考えて行きたいと思います。

 

 物質の状態は通常「固体」「液体」「気体」の 3 つの状態を取ります。これは金属でも同じで す。

 はんだの場合は「液体」と「固体」の状態が重要となります。

(Pb が蒸気となって人体に 入ると健康を害する。という問題もありますが、はんだ接続とは直接関係ないので「気体」は、 ここでは省略します。)

 

 物質が「固体」になるか「液体」になるか「気体」になるかは温度、圧力で変わってきます。 物質が取れる状態については次の式(ギブスの相律)で表されます。 

  水のような純物質(成分が1つ)だった場合は、C が 1 になります。また通常大気圧中での反 応ですので定数「2」は圧力の項が無くなり「1」になります。(これから先、気圧は 1 気圧に固 定して話を進めることにします。)

 

 すると(8)式は、 

 となります。P は相の数ですので、もし「液体」と「固体」が共存する状態の場合は P =2 、F =0 となり、温度を変えることはできません。(温度を変えるとどちらか1 つの相になってしまいます。) しかし 2 つの物質で構成されていた場合、

 

 (8)式は、

 となります。よって「液相」と「固相」が共存する状態の場合は P = 2 、 F =1となり、温度を変えても 2 つの相が存在することになります。 理解しやすいように、水を例として考えます。純水の場合、成分は 1 で C=1、 「液 相」と「固相」が共存する状態ですので、P = 2 になります。大気中で考えますので 定数は温度だけの「1」になります。

 

 すると(8)式は、

 となり、「液相」と「固相」が共存する状態、=「水」と「氷」が共存できる温度は「0℃」 だけ、すなわち温度を「0℃」から変えると水だけになるか、「氷」だけになってしま うという私たちが経験した通りのことが当てはまります。

 

 これが 2 成分の場合、すなわち Sn と Pb の 2 つの成分でできている共晶はんだのよ うな物質の場合は、ある温度以下ではα成分とβ成分による合金固体ができます。しか し温度が上がり「共晶点」※1ではα成分の固相、β成分の固相と、α成分とβ成分によ る合金相が混在する状態になります。 という事は、「共晶点」では「α成分とβ成分による合金の液相」と「β成分の固相」 と「α成分の固相」の 3 つの相が共存する状態です。すなわち(8)式では P =3、C= 1 になります。

 

 すると(8)式は、

 となり、F = 0 となります。このことから、共晶点=「α成分とβ成分による合金の 液相」と「β成分の固相」と「α成分の固相」の 3 つの相が共存する状態では温度の自 由度は 0、すなわち 2 成分で大気圧中では共晶点の温度は 1 つしか取れないことがわか ります。次回は合金の状態について相図(状態図)について学んでいきましょう。